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Yakusho Observatory

日本の「合法ドラッグ」からCBD・HHCまで

一般読者のための年表

この年表は、日本の「合法ドラッグ」「脱法ドラッグ」「危険ドラッグ」から、CBD、HHCなどのカンナビノイド商品へ至る流れを、一般読者向けに整理したものです。これらすべてが一つの市場として連続していた、という意味ではありません。商品・販売経路、法制度、行政上の呼称、分析で確認された成分は、それぞれ別の速度で変化しています。

まず全体像

時期市場・商品で目立つもの制度・呼称の大きな変化研究・分析で見えてきたこと
1990年代後半「合法ドラッグ」と称する植物製品、液体、芳香剤など東京都が試買・分析を開始。「合法」から「脱法」という呼び方も現れる表示された用途・商品名と、実際の成分が必ずしも一致しない
2001–2006マジックマッシュルーム、5-MeO-DIPT、AMT、亜硝酸エステル類など個別物質の麻薬指定が進み、2006年に「指定薬物」制度を創設全国買上げ調査が規制判断に使われ、複数成分を含む商品も確認される
2007–2012「脱法ハーブ」、SPICE系商品、合成カンナビノイド2007年に指定薬物制度施行。合成カンナビノイドの個別指定が続く国内流通ハーブからJWH-018などが相次いで同定される
2013–2015ハーブ、リキッド、粉末など多様な商品2013年に包括指定。2014年に行政上の新呼称「危険ドラッグ」。販売店への取締り強化規制前後で検出される化学構造が変化。実店舗は2014年3月215店から2015年7月0店へ
2019–2021CBDオイル、リキッド、VAPE、食品、化粧品などCBD製品のTHC含有や流通実態が行政調査の対象になる2021年公表の厚労省調査では国内販売139製品を調査し、剤形・表示成分の多様化を確認
2022–2026HHC、THCH、HHCHなどのカンナビノイド名を掲げる商品HHCを2022年、THCH・HHCHを2023年に指定薬物化。2024年末にΔ9-THC残留限度値導入。CBNは2026年指定薬物化分子名や濃度を表示した商品でも、分析すると表示成分と一致しない例が報告される

前史:1989年|MDMAなどとTHC関連物質の麻薬指定

1989年、MDMA、MDAなど複数の物質が新たに麻薬として指定された。同じ時期の法制度には、Δ9-THCなどテトラヒドロカンナビノール類の化学的製造品も麻薬として位置づけられている。

ただし、これは後年のSPICEに含まれる合成カンナビノイド受容体作動薬(JWH-018など)の市場が1989年に始まった、という意味ではない。THCそのものの法的扱いの前史と、2000年代末以降のSPICE/SCRA市場は分けて考える必要がある。

1996年

東京都が、乱用が懸念される薬物を含む市販製品の試買・分析調査を開始した。後年の東京都資料では、調査開始当初にマオウ、ヨヒンベなど植物・生薬系成分を含む製品が流通していたことが整理されている。

1998年

東京都は「合法ドラッグ」と称する芳香剤や植物製品などを試買・分析した。1998年8月の調査では、芳香剤等14品目から亜硝酸アミルまたは亜硝酸イソブチルが確認された。また別の17品目では、マオウ、ヤボランジ、ヨヒンベなどを含む商品が確認されている。

商品名には MIDNIGHT ECSTASYRAVE XClimaxx など、夜、レイヴ、性的イメージなどを想起させる語彙も現れていた。

1999–2000年

東京都の後年の総説では、1999年から「合法ドラッグ」という表現は適切でないとして「脱法ドラッグ」という呼称を使うようになったと整理されている。ただし当時の公表資料では新旧の呼称が併存しており、一日を境に完全に切り替わったわけではない。

1999年には関田清司・井上達が、「合法ドラッグ」と称して流通する商品を毒性学の論文で取り上げた。つまり、この種の商品は1990年代末にはすでに行政・研究の対象になっていた。

この時期の要点:植物製品、液体、芳香剤など、異なる形の商品が「合法ドラッグ」と称して流通し、その表示と実成分の関係が調べられ始めた。

2001–2006|全国買上げ調査と個別物質の規制

2001年|全国買上げ調査

厚生労働省は2001年度から、いわゆる脱法ドラッグを含む市場流通品の買上げ調査を開始した。インターネット上の広告・販売情報の監視も行われた。

この買上げ調査は、その後の規制判断にも利用された。2001年度にはマジックマッシュルーム、2002年度にはBZP、2003年度には5-MeO-DIPTやAMTなどの流通実態が調べられている。

2002年|マジックマッシュルーム規制

サイロシビン/サイロシンを含むマジックマッシュルームが「合法ドラッグ」と称して販売され、インターネットでも流通していた。2002年6月6日から、麻薬成分を含むキノコが麻薬原料植物として規制対象になった。

同じ頃の白松賢のフィールドワークでは、マジックマッシュルームを「合法」「ナチュラル」と捉え、「ケミカル」と区別する利用者の語りが記録されている。行政上の分類とは別に、利用者自身の分類も存在していた。

2003–2004年|多成分の商品

東京都の試買では、5-MeO-DIPT、2C-I、TMA-2、1,4-BDなどが確認された。2003年10月の調査では25品目中13品目が当時の薬事法違反とされた。

2003–04年度の東京都研究では、100検体から31種のケミカル系薬物が確認され、30製品には2~3成分が含まれていた。同じ商品名や似た外観であっても、中身が同じとは限らないという問題はSPICE以前から観測されていた。

2005年|5-MeO-DIPT・AMTを麻薬指定

5-MeO-DIPTとAMTを麻薬に追加指定する政令が2005年3月18日に公布され、4月17日から規制された。同年、東京都では独自の薬物濫用防止条例も施行された。

2006年|指定薬物制度の創設

2006年の薬事法改正で「指定薬物」制度が創設された。麻薬指定とは別に、中枢神経系への作用と保健衛生上の危害のおそれがある物質について、医療等の用途を除き製造・輸入・販売などを規制できる仕組みである。

この時期の要点:市場で商品を買い上げ、成分を分析し、その結果を規制判断へつなげる行政実務が継続的に行われるようになった。

2007–2012|指定薬物制度と「脱法ハーブ」

2007年|指定薬物制度が施行

2007年4月1日、指定薬物制度が施行された。初回は亜硝酸エステル類、Salvinorin A、トリプタミン類など31物質が指定された。

2009–2010年|SPICEと合成カンナビノイド

欧州では2000年代半ばから、SPICEなど「ハーブ」「お香」として販売される商品が知られるようになった。日本でも2009年には、国内流通ハーブ製品から新しいカンナビノイド作用物質が同定されている。

Uchiyama et al. (2009) は、日本のハーブ製品からカンナビノイド類似物質を同定した。さらにUchiyama et al. (2010) は、日本の違法ドラッグ市場で流通していた46種類の混合ハーブ製品を分析し、44製品、約95.7%から合成カンナビノイドを検出した。JWH-018、カンナビシクロヘキサノール(cannabicyclohexanol)、JWH-073などが確認され、含有濃度にも大きなばらつきがあった。

2009年11月には、JWH-018、CP-47,497、カンナビシクロヘキサノールなどの規制が施行された。

2011–2012年|検出と指定の反復

新しい合成カンナビノイドの検出と指定が繰り返された。2012年度の厚生労働省買上げ調査では、違法ドラッグ195製品のうち188製品から28種の指定薬物と1種の麻薬が検出された。178製品からは、買上げ後に指定薬物となった成分21種が検出されている。

2012年初頭の東京都内では、当時「脱法ドラッグ」等と呼ばれた商品を扱う店舗が90店を超えていたことが議会答弁で報告されている。

この時期の要点:「ハーブ」という商品外観と、その中に含まれる合成カンナビノイドの化学的同一性が一致しない市場が拡大した。

2013–2015|包括指定と「危険ドラッグ」対策

2013年|初の包括指定

2013年3月22日、合成カンナビノイド系の初めての包括指定が施行された。一定の化学構造を持つ物質群をまとめて規制する方式で、合成カンナビノイド系772物質が対象となった。

Kikura-Hanajiri et al. (2014) は、この包括指定の前後で日本市場から検出される合成カンナビノイドの構造クラスが変化したことを報告している。ただし、規制と構造変化の時間的対応から、個々の新物質が規制によって直接「生み出された」とまでは言えない。

2014年4月|所持・使用も禁止

2014年4月1日から、指定薬物について、それまでの製造・輸入・販売等に加え、所持、使用、購入、譲受けも禁止された。

2014年6月|池袋の交通死亡事故

6月24日、東京・池袋で、当時「脱法ハーブ」と呼ばれた商品を使用した運転者による交通死亡事故が発生した。厚生労働省の後年整理では、1人が死亡し6人が重軽傷を負った事故として記録されている。事故や健康被害が相次いだことを背景に、政府は同年7月に緊急対策をまとめた。

2014年7月22日|「危険ドラッグ」という新呼称

厚生労働省と警察庁は、「脱法ドラッグ」に代わる行政上の新呼称として「危険ドラッグ」を選定した。これは法律上の物質カテゴリー名ではなく、危険性を伝えるために選ばれた呼称である。

2014–2015年|販売実店舗が215店から0店へ

厚生労働省の集計では、危険ドラッグ販売実店舗は2014年3月時点で全国215店あった。店舗への立入検査、検査命令・販売停止命令、迅速な指定、インターネット対策などが進められ、2015年7月には実店舗が0店となった。

ただし、これは危険ドラッグの流通自体が完全に消滅したことを意味しない。厚生労働省も、インターネットやデリバリー販売への対策を引き続き必要としていた。

この時期の要点:2014年前後には、成分規制だけでなく、所持・使用規制、店舗への取締り、行政上の呼称、販売経路が同時に大きく変化した。

2019–2021|CBD市場が行政・研究の対象になる

実店舗型の危険ドラッグ市場が縮小した後、CBDを掲げるオイル、リキッド、VAPE、食品、化粧品などが日本市場で流通するようになった。ただし、旧来の危険ドラッグ市場とCBD市場の人的・事業者的な連続性は、年表上の近接だけでは判断できない。

2020年|一部CBD製品からTHCを検出

厚生労働省は、市場流通していたCBD製品を分析し、複数の製品から微量のTHCを検出した事例を公表した。CBDという表示があること自体は、当時の法制度上問題となるTHCが含まれていないことを保証しなかった。

2021年|139製品の国内販売状況調査

厚生労働省が2021年に公表したCBD製品調査では、国内販売状況として139製品が調べられた。表示CBD含有量は1~99%と幅広く、CBDV、CBG、CBC、CBNなどを表示する商品もあった。商品形態は、グミ、コーヒー、キャンディー、オイル、化粧品、リキッド、ワックスなど多岐にわたっていた。

同じ資料の別の買取調査では12製品を分析し、THCは12製品すべてで不検出だった。これは上記2020年のTHC検出事例と矛盾するものではなく、別の製品群を対象とした調査である。

この時期の要点:CBD商品では、成分名、濃度、剤形、用途が商品表示の重要な要素となり、同時にTHC混入・残留の確認が行政上の課題になった。

2022–2026|HHC、THCH、HHCH、そしてCBN

2022年3月|HHCを指定薬物化

HHC、Δ9-THCPなど6物質を指定薬物とする省令が2022年3月7日に公布され、3月17日に施行された。

HHCは2021年に新しく発明された物質ではない。化学研究自体は20世紀前半まで遡る。2020年代の特徴は、HHCがCBDなどを原料とする半合成カンナビノイドとして嗜好用商品市場に現れたことである。

2023年|THCH・HHCH

THCH(Δ8-THCH、Δ9-THCH)は2023年7月25日に指定薬物として指定する省令が公布され、8月4日に施行された。

HHCHは同年11月22日に指定する省令が公布され、12月2日に施行された。

この時期には、HHC、THCH、HHCPなど、カンナビノイドの略号を商品名・成分表示の前面に置く商品が日本でも流通した。

2024年12月|Δ9-THC残留限度値

2024年12月12日、大麻取締法等改正の第1段階が施行され、製品等に残留するΔ9-THCについて製品区分ごとの残留限度値が設けられた。限度値を超えるΔ9-THCを含む製品は麻薬に該当する。

施行時の限度値は、油脂・粉末が10 ppm、水溶液が0.10 ppm、それ以外が1 ppmである。

2024–2025年|表示された分子名と実成分のずれ

Watanabe et al. の研究(2024年オンライン公表、2025年誌面掲載)では、60% HHCPM80% 10-OH-HHCなどと表示された電子タバコ用液体2製品を分析したところ、いずれからも表示された化合物そのものは検出されず、別のカンナビノイド類が確認された。

分子名らしい略号が商品表示の中心になっても、表示と実際の物質組成が必ず一致するわけではない。

2026年6月|CBNを指定薬物化

CBN(カンナビノール)を指定薬物とする省令が2026年3月18日に公布され、6月1日に施行された。医療等の用途を除き、CBNを含む製品の製造、輸入、販売、所持、使用等が原則禁止された。

この時期の要点:2020年代には、カンナビノイド名が商品表示と法令上の物質名の双方に直接現れる一方、表示された名前と分析された中身が一致しない問題も残っている。

呼び名だけを並べると

1990年代後半:「合法ドラッグ」
1999年頃~:「脱法ドラッグ」
2000年代末~:「脱法ハーブ」などの商品カテゴリーが目立つ
2014年7月:行政上の新呼称「危険ドラッグ」

一方で、2010年代後半以降にはCBD / VAPE / ヘンプ製品という別の市場語彙が拡大し、2020年代にはHHC / THCH / HHCH / HHCPなどのカンナビノイド略号を前面に出す商品も流通した。

ここで重要なのは、上の並びを一本の系譜とみなさないことである。同じ利用者、同じ販売者、同じ文化、同じ市場が、そのまま次の段階へ移ったことを意味しない。 呼称、商品形態、販売者、利用者、化学成分、法制度の連続性は、それぞれ別に検証する必要がある。

この年表を読んだあとに

この年表では、少なくとも三つの時間軸を区別している。

  1. 商品市場の時間――何という名前・外観・剤形で売られたか。
  2. 物質分析の時間――分析すると、実際に何が含まれていたか。
  3. 法制度の時間――いつ、何として規制されたか。

SPICEでは、商品が「ハーブ」「お香」として流通する一方、分析によってJWH-018などの合成カンナビノイドが同定された。HHC以降では、逆に分子名らしい略号が商品の表面に出るようになったが、分析すると表示成分と一致しない場合もある。

この三つの時間軸を分けておくと、次の先行研究レビューで、社会学、分析化学、薬物行政、商品研究がそれぞれ何を見てきたのかを追いやすくなる。

先行研究レビューを読む →

主な参照資料

厚生労働省. (1989). 麻薬を指定する政令の一部を改正する政令の施行について(通知).

厚生労働省. (2002). 「いわゆるマジックマッシュルームを麻薬原料植物として指定する件」に対して寄せられたご意見等について.

厚生労働省. (2005). 麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令の一部を改正する政令の施行について.

厚生労働省. (2007). 薬事法第2条第14項に規定する指定薬物及び同法第76条の4に規定する医療等の用途を定める省令の制定について.

厚生労働省. (2013). 平成24年度「無承認無許可医薬品等買上調査」の結果について.

厚生労働省. (2014). 「脱法ドラッグ」に代わる新呼称名を選定しました.

厚生労働省. (2015). 危険ドラッグ対策について/これまでの経過.

厚生労働省. (2020). 大麻成分THCを含有する製品について.

厚生労働省. (2021). CBD製品に関する調査について②.

厚生労働省. (2022). 指定薬物を指定する省令が公布されました[HHC等6物質].

厚生労働省. (2023). 指定薬物を指定する省令が公布されました[THCH/HHCH].

厚生労働省. (2024). 大麻取締法等改正に伴う製品中のTHC残留限度値等.

厚生労働省. (2026). CBNの指定薬物の指定について.

Uchiyama, N., Kikura-Hanajiri, R., Kawahara, N., Haishima, Y., & Goda, Y. (2009). Identification of a cannabinoid analog as a new type of designer drug in a herbal product. Chemical & Pharmaceutical Bulletin, 57(4), 439–441. https://doi.org/10.1248/cpb.57.439

Uchiyama, N., Kikura-Hanajiri, R., Ogata, J., & Goda, Y. (2010). Chemical analysis of synthetic cannabinoids as designer drugs in herbal products. Forensic Science International, 198(1–3), 31–38. https://doi.org/10.1016/j.forsciint.2010.01.004

Kikura-Hanajiri, R., Uchiyama, N., Kawamura, M., & Goda, Y. (2014). Changes in the prevalence of new psychoactive substances before and after the introduction of the generic scheduling of synthetic cannabinoids in Japan. Drug Testing and Analysis, 6(7–8), 832–839. https://doi.org/10.1002/dta.1584

Watanabe, S., Murakami, T., Muratsu, S., Fujiwara, H., Nakanishi, T., & Seto, Y. (2025). Discrepancies between the stated contents and analytical findings for electronic cigarette liquid products: Identification of the new cannabinoid, Δ9-tetrahydrocannabihexol acetate. Drug Testing and Analysis, 17(5), 694–700. https://doi.org/10.1002/dta.3777